埼玉県内の企業で、上司のパワーハラスメント(パワハラ)によって休業した社員の傷病手当の支給申請に際して、全国健康保険協会(協会けんぽ)に提出しなくてはならない書類の記載を社長が拒否したため、長期に申請できない問題が起きました。労働組合や日本共産党の梅村さえこ衆院議員らの働きかけで、問題は解決しましたが、背景に社会保険庁解体に伴う社会保険行政の弱体化がありました。
傷病手当金の支給申請ができずに困っていたのは、空調設備会社で長年、経理事務をしていた女性社員(53)です。4年前、上司のパワハラでうつ病を発症し、休業しました。
女性は、労災が認められなかったため、協会けんぽに傷病手当金(休業中の賃金補償)の支給を申請しようとしましたが、社長は支給申請書のうち出退勤や給与支払い状況など「事業主の証明」欄への記載を拒否し続けました。
女性の支援者によると、社長は、女性が労働組合に加入してパワハラ問題で団体交渉したことを逆恨みして記載を拒否したといいます。
健康保険法施行規則では、正当な理由のない申請者への記載拒否を禁じていますが、罰則はありません。
困った女性は保険者の協会けんぽに「会社を指導してほしい」と求めましたが、「民間なので指導する権限がない。法律を『伝える』ことしかできない」という対応でした。
国の制度して社会保険(政府管掌健康保険)を運営していた社会保険庁が2008年に解体され、協会けんぽへ移管。今回の問題の背景には民営化による社会保険行政の弱体化があることは明らかです。
女性は、全労連・埼玉ユニオンの役員に相談し、共産党の梅村議員にも相談。梅村議員が厚生労働省に「きちんとした対応を」と是正を求めるなかで、協会けんぽが社長を強く説得し、今年4月に証明書を提出させ、女性は傷病手当金を受け取ることができました。
女性は「困ったときに協会けんぽは『決まりだから』と言うだけで、どうしたらいいのか教えてくれませんでした。私は労働組合や議員さんに相談して解決できましたが、多くの人はあきらめてしまうと思います。親身に相談に乗ってくれる窓口が必要だし、行政が企業をしっかり指導してほしい」と話します。
梅村議員は「政府管掌健保から協会けんぽに移行する際、共産党国会議員団は国の責任の後退につながりかねないと厳しく指摘しました。傷病手当金は労働者の権利であり、侵害されることがあってはなりません。今後も労働者の権利が守られるよう奮闘したい」と話しています。
傷病手当金…事業者で雇われて働く人が病気やけがで休んだ時、健康保険がその間得られなかった給与相当額の一部を支給し、生活を保障する制度(労災保険の給付対象となった場合は除く)。協会けんぽの被保険者の場合、事業主の証明書(休業期間や給料の支払い状況など)と医師の意見書を付けて、協会けんぽの各都道府県支部に申請します。2年以上過ぎた休業期間は対象外になります。
【「しんぶん赤旗」2016年7月15日付】