NHKの2017年度予算案が21日、衆院総務委員会で全会一致で承認されました。全会一致は13年度以来4年ぶり。籾井勝人前会長が14年1月に就任して以降、籾井前会長の国家権力からの独立、放送における表現の自由の確保の根本姿勢が揺らぎ、国民の批判が高まるなか、この3年は連続で自民、公明などの賛成多数で承認されてきました。
同委員会で、日本共産党の田村貴昭、梅村さえこの両議員が、1月に会長に就任した上田良一氏の公共放送に対する認識をただしました。
田村氏は、上田氏がNHK経営委員時代、経営委員会が籾井氏を3度にわたって「厳重注意」した背景と教訓について聞きました。
上田氏は、「政府が右と言うものは左と言えない」などの籾井氏の就任会見での言動や、ハイヤー私的利用問題について注意したと説明し、「公共放送のトップには、高い倫理観と説明責任が求められる。自らも厳しく律したい」とのべました。
田村氏は、「放送法の原点は、政治権力からの独立ではないか」と質問。上田氏は「報道機関として、自主自律、不編不党、公正公平を貫くことが公共放送の生命線だ」と答えました。
梅村氏は、「籾井氏は再任させなかった最大の力は視聴者・国民の声」だと指摘。市民団体やNHK退職者有志が集めた「再任反対署名」が11万5千人を超え、各地で視聴者団体が相次いで結成されたことを紹介し、「この声をどう受け止めえいるのか」と問いました。上田氏は「NHKは視聴者・国民の信頼が最も大事。信頼回復のために全力をあげたい」と表明しました。
梅村氏は、戦前のNHKが戦争の扇動役となったことは「痛苦の教訓」だとのべ、「戦後、政府から独立し、受信料で支えられる公共放送となった原点を、今しっかり踏まえるべきではないか」と歴史認識をただしました。
上田氏は「(NHKの)前身の日本放送協会時代には、放送内容に対する政府からの指示や検閲などが行われた。こうした歴史的な経過を踏まえ、戦後民主主義のもとで自由な放送を普及するために放送法が制定され、現在のNHKの形になった」と答えました。
【「しんぶん赤旗」2017年3月22日付】
ー会議録ー
○梅村委員 日本共産党の梅村さえこです。
日本共産党は、この三年間、NHK予算承認に反対をしてまいりました。それは、籾井前会長が、就任直後から、政府が右と言っているものを我々が左と言うわけにはいかないなどの発言を繰り返し、視聴者・国民の信頼を大きく傷つけてきたからです。放送法から逸脱する、公共放送であるNHKの会長としてあるまじきものでした。
今回、経営委員会は、籾井前会長にかわって上田新会長を任命されました。この機に、この三年間をしっかり検証し、今後NHKが放送法の精神を発揮して公共放送として発展すべきだ、そういう点から質問を行いたいと思います。
まず、経営委員会に確認いたします。
昨年十月十一日、次期会長を選ぶ指名部会を開かれ、会長の資格要件を変更したかと思います。変更点を読み上げ、御紹介ください。
○石原参考人 お答えいたします。
項目を整理して、六項目から五項目に、また並び順を変えたわけでございます。
具体的には、旧資格要件の六番目にありました、業務遂行力があり、説明力があるについて、NHKの会長が広く国民から信頼を得られるのは大変重要なことであり、そのために必要なことが皆様に対してきちんと説明する力であるという議論があったことを踏まえて、この二つの要素を一文にまとめました。
また、業務遂行能力が重要なことは言わずもがなではありますが、構想力、リーダーシップを豊かに業務遂行する力は重要なことなので、これを一文にまとめました。
その上で、旧資格要件の三番目にあった政治的に中立であるを二番目にしたわけでございます。
○梅村委員 先ほども、田村議員の質問にあり、御答弁もありましたが、ここで一つ確認したいんですけれども、今まで三番目だった政治的に中立であるが、公共放送の使命を十分に理解しているに続いて二番目に繰り上がった。これは、この間の教訓も踏まえて、しっかりと、この政治的に中立であるという要件が、会長要件としてこれまでより一層重視されたというふうに捉えてもよろしいでしょうか。
○石原参考人 お答えいたします。
各項目の並び順につきましては、重要性の順という意味を持たせることもありますけれども、最初の二つの項目を大前提となる基本的な重要事項である、あとの三つの項目を専ら本人の資質に関する要素として並べかえたということでございます。
もちろん、政治的中立は極めて大事な基本的事項の一つであり、大切なことでもありますので、順番を変えたわけでございます。
○梅村委員 この三年間を検証し、やはり会長は放送法を理解し遵守するということの重要性、そして遵守することは当然のことだということを改めて申しておきたいというふうに思います。
そこで、質問を少し飛ばしまして、上田会長に伺いたいと思います。
上田会長は、前経営委員でもあられました。籾井前会長の発言等をめぐりましては、視聴者から大変厳しい意見がNHKにも多数直接寄せられ、さらに罷免、解任要求の運動もこの三年間広がったかと思います。
昨年には、市民団体やNHK退職者有志によって、再任反対を求める要請署名が十一万五千人を超えて届けられたということも聞きました。また、この三年間で、視聴者・市民の活動が広がり、NHK問題を考える会などが各地にでき、二十八団体となっているとも聞きました。視聴者の公共放送としてのNHKへの信頼が大きく落ちた状況にもあると思います。ですから、何よりも今、信頼回復が急務だと思います。
上田新会長、この三年間、視聴者・国民の皆さんから厳しい声があったことをどのように重く受け取られているか、お願いいたします。
○上田参考人 お答えいたします。
私は、公共放送NHKにとりまして、視聴者・国民の皆様からの信頼が最も大事だと認識いたしておりまして、この信頼回復のために全力を投入したいと考えております。
○梅村委員 籾井前会長の再任にならなかった最大の力は、視聴者・国民の声であるというふうに考えます。
それだけに、視聴者・国民の皆さんは、今、上田新会長が放送法、公共放送に対する姿勢をどのようにされていくのか、このことそのものに大変大きく注視をしているのだと思います。
確認させていただきますが、会長は、就任会見で、自主自律の立場から、公平公正、不偏不党を必ず貫くと決意されました。大変重要な点だと思います。
それで、その自主自律にもかかわってお伺いしますが、NHKオンラインの質問集に、「NHKとはどういう事業体なのか」の問いに対して、「政府から独立した公共放送事業体」との明記があります。NHKはなぜ政府から独立していることが求められているとお考えなのか、その点を御答弁ください。
○上田参考人 お答えいたします。
NHKは、広く視聴者・国民の皆様に支えられる公共放送事業体として、昭和二十五年に制定されました放送法に基づいて設立されたものであります。
NHKが政府から独立した事業体として設立されたのは、公共放送の使命として、放送の自主自律、公平公正、不偏不党を堅持して放送を行うことが強く求められているからだというふうに認識いたしております。
○梅村委員 今、昭和二十五年の放送法の制定に基づきということが改めて強調されました。そうなりますと、もう少し突っ込んで、なぜ自主自律ということがこの機に制定されたのかということでございます。
放送法第一条は、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること、放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、健全な民主主義の発達に資するようにすることをその目的として定めております。そのためには、あらゆる権力からの自立が求められます。
それは紛れもなく、戦前、社団法人日本放送協会が政府の統制下に置かれ、軍国主義的な世論誘導の国策宣伝機関となって国営放送の役割を果たした痛苦の反省からであります。国営放送として、国家の起こした戦争に加担し、先導役となりました。日本が起こした戦争は、アジア二千万人、日本人三百十万人のとうとい命を奪いました。こうした深い反省から、戦後、NHKは、名称と財産を引き継ぎましたが、国営放送ではなく、政府から自立した、独立した、視聴者一人一人の受信料で支えられる公共放送となってスタートしたのではないでしょうか。
このようなNHKの歴史と戦後の放送法の原点を見ることができると思うが、こういうこともあったということをしっかりと原点として踏まえることはできるでしょうか。
○上田参考人 お答えいたします。
NHKとしては、御指摘の放送法第一条を含め、放送法にのっとり、番組編集の自由を確保し、公平公正、不偏不党、自主自律を貫くことが公共放送として信頼されるかどうかの生命線であると考えております。
国民の知る権利に応え、特定の利害に左右されることなく、意見が対立している問題は多角的に取り扱うなど、基本的な姿勢を堅持する、この認識で業務の執行に当たってまいりたいと考えております。
○梅村委員 戦前のそうしたNHKの果たした役割との関係での放送法はいかがでしょうか。
○上田参考人 お答えいたします。
前身の社団法人日本放送協会の時代には、放送内容に対する政府からの指示や検閲などが行われており、こうした歴史的な経緯を踏まえ、戦後、民主主義のもとで自由な放送を保障するために放送法が制定され、現在のNHKの形になったものと承知いたしております。
○梅村委員 ぜひそこのところを最初から御答弁いただきたかったというふうに思います。
なぜ政府から自立、独立しているか。やはり、多くの犠牲の上で、NHKの果たす役割が根本的に問われ、放送法としてスタートしたんだというふうに思います。そして、今日、その原点が改めて深く問われている。とりわけ、籾井前会長のもとで、右のものを左と言うわけにはいかない、そういうような発言が繰り広げられてきたもとで、改めて、この原点を大事にすることが大切ではないかということを指摘させていただきたいと思います。
その点で、籾井前会長も上田会長も、その任命過程や、総括がこの間どのように行われてきたのかということについても伺いたいと思います。
先ほど質問にもありましたが、議事録などではほとんどこの問題についても明らかにされていないのではないか、不透明感が否めないのではないかというふうに思います。経営委員の中から新会長が選ばれることへの危惧の声も出ております。
視聴者のための公共放送だからこそ、広く視聴者・国民の声や意見を反映させた人選の進め方、あり方の改善も、この三年間を振り返れば一層今後求められていくと思いますが、この点、いかがでしょうか。
○石原参考人 お答えいたします。
経営委員会はNHKの最高意思決定機関でございます。
会長の選考の過程につきましては、指名部会の概要と要旨、任命議決時の経営委員会議事録及び任命時の会見の模様、こういったものを経営委員会のホームページで公開させていただいております。
個人情報を扱う人事案件でございます、一定の部分は非公開とさせていただいておりますけれども、任命当日の議論等につきましては記載を充実させており、できる限り透明性の向上を図ったと考えております。
○梅村委員 籾井前会長に対するさまざまな疑念や声が広がった後だけに、どのように新会長が選ばれていくのかということは国民の大きな関心事だったというふうに思います。
それに対して、やはり公共放送との関係では、情報公開がまだまだ少ないのではないか、もっとオープンにされたNHKになってほしいというたくさんの声があるかと思いますので、ぜひこの点も今後改善を図っていただきたいと思います。そして、常に視聴者・国民とともにという視点で経営に当たっていただきたいというふうに思います。
そこで、最後になりますが、その視聴者・国民にとって大きな影響を与えるテレビ番組のネット同時配信について、これから聞いていきたいと思います。
上田会長は、就任直後に、常時同時配信が実現した際の負担のあり方や受信料体系のあり方などを諮問し、外部有識者から見解を求めるNHK受信料制度等検討委員会を設置されました。今後、どんなスケジュールを予定されておられますでしょうか。
○坂本参考人 お答え申し上げます。
会長の諮問機関として、外部の有識者によるNHK受信料制度等検討委員会を設置し、先月、二月二十七日に第一回会合を開催したところであります。
委員会におきましては、メディアの環境や社会の環境などの変化を踏まえた受信料制度とその運用のあり方について検討していただきたいというふうに考えているところです。
当面の諮問事項として、一つ、常時同時配信の負担のあり方について、二つ目が公平負担徹底のあり方について、三つ目が受信料体系のあり方についてであります。以上につきまして、七月をめどに最初の答申をいただくことをお願いしているところであります。
その後、答申された内容を具体化するための議論をさらにお願いし、年末までには次の答申をいただくことになるのではないかというふうに考えているところでございます。
○梅村委員 大変急ピッチな取り組みにもなっているようにも思われます。
スマートフォンやパソコンで動画を楽しむ時代であり、放送業界では、テレビ番組のネット同時配信への検討が求められていることも事実だというふうに思います。
同時に、NHKの場合、公共放送の業務として通信をどこまで行っていくのか、視聴者・国民の負担がどうなるのか、受信料そのもののあり方を大きく問う法整備が必要な問題であり、これはNHKが公共放送から公共メディアに転換するかどうかの大変大きな問題だというふうにあります。
視聴者が置き去りにされるような進め方、議論ではだめだと思いますが、この点はいかがでしょうか。
○上田参考人 お答えいたします。
受信料制度等検討委員会の当面の諮問事項につきましては、二月の会見で、次期経営計画にもある程度反映できるような形で検討をお願いしたいと申し上げたことを踏まえまして、七月をめどに最初の答申をいただくことをお願いいたしました。
この答申を踏まえましてNHKとしての考えをまとめることになりますが、常時同時配信の実施や、仮にその受信者に新たな御負担をお願いする場合には、国による法制度の整備が必要であり、NHKだけで検討できることではありません。
いずれにいたしましても、視聴者・国民の皆様に御納得していただけるような制度となることが重要であると考えております。
○梅村委員 本当にそうだというふうに思います。
それで、もう少しお伺いしたいと思いますが、総務省の放送を巡る諸課題に関する検討会において昨年十二月十三日に出されたNHKの資料を見てみますと、例えば、同時配信の実施に要するコスト(試算)も提出されているかというふうに思います。その内容を御答弁いただきたいと思います。
そしてまた、それに対応する財源についても、「テレビ放送を常時インターネットで見られるようにする際には、それに要する費用の適切な負担の仕組みがあわせて整備される必要がある。その際、受信料制度を毀損しない仕組みとなることが重要」ということで、かなり具体的な資料なども既に提供されているように思いますが、この二点についてお伺いしたいと思います。
○坂本参考人 お答え申し上げます。
NHKは、去年、総務省の放送を巡る諸課題に関する検討会で、常時同時配信を可能とするための制度整備を要望した際、そのコストについても御説明を申し上げております。
総合テレビと教育テレビの二波を地域放送を含めて配信することを想定し、一定の条件下で試算した場合の初期投資として、数十億円程度を要するとしております。ただ、これにつきましては、常時同時配信にかかるコストは、配信する信号のビットレート、それから視聴者からのアクセス数、システム構成等の前提条件によって大きく変わってくることが考えられます。
また、ランニングコストですけれども、回線費、減価償却費などを含め、年間数十億円から百億円を下回る規模と想定をしております。また、権利確保のための費用は含んでおりません。
権利処理のあり方等につきましては、情報通信審議会の放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会でも検討が行われているところであります。
それから、受信料制度を毀損しない仕組みということにつきましては、先ほど申し上げましたけれども、外部の有識者によるNHK受信料制度等検討委員会を設置して、その中で答申をいただくことで今検討をお願いしたところでございます。
この答申を踏まえましてNHKとしての考えをまとめていくことになりますけれども、いずれにしても、受信料制度を毀損しない、そうした仕組みが重要でありまして、視聴者・国民の皆様にまず納得していただけるような仕組みを考えていきたいというふうに考えております。
○梅村委員 納得するような仕組みということですけれども、大変、スケジュール感としては早い目標でやられているようなことも感じるわけです。
どのタイミングで、どういうふうに国民的な議論を起こして、どういうふうに国民が納得するような手順にしていくのか、その点が全くここでは不明確な一方で、このコストについては、初期費用で数十億円程度、ランニングコストとして年間数十億円から百億円を下回る、このような数字が先に出てきているわけですね。
そして、毀損しないということですと、これまでの受信料は確保しながら、ネット利用者からどう利用料、受信料を徴収するのかという議論にもなっていくのかなとも思いますし、また、義務化につながらないのかというような、そういう不安の声ももう既に大きく国民の中で出てきている問題です。
ですから、国民的な議論、納得と言われますが、そういうことをどのようにやっていくのかということもしっかりと考えていただきたいというふうに思います。
とりわけ、日本民間放送連盟は、権利処理やインフラ整備の費用など、実施する条件が整っていないのが実情だとして、拙速な制度改正は避けるべきだという態度表明を行っておられるということも聞いております。
こういう状況を全体として見ますと、NHKが非常に前のめりになっているのではないか。
最後にもう一度確認しますが、NHKは公共放送であり、主人公は視聴者・国民です。国民的な議論、合意を得ることが絶対に不可欠だということでよろしいでしょうか。
○坂本参考人 お答え申し上げます。
受信料制度等検討委員会での答申を踏まえましてNHKとしての考えをまとめていくことになりますけれども、常時同時配信の実施や、仮にその受信者に新たな御負担をお願いするという場合には、国による法制度の整備が必要となります。NHKだけで検討できることではございませんので、そういったところもきちんと対応していきたいと思います。
いずれにしましても、視聴者・国民の皆様に納得していただけるような制度となることが重要であるというふうに考えております。
それから、民放連、民放各社、放送各社からの御指摘については我々も十分受けとめておりますので、公共放送と民間放送連盟、放送の二元体制をきちんと維持する中で対応していきたいというふうに考えております。
○梅村委員 全国民にかかわることですので、新会長の方からも一言お願いいたします。
○上田参考人 お答えいたします。
今、坂本理事の方からお答えさせていただきましたけれども、常時同時配信の実施や、仮にその受信者に新たな負担をお願いする場合には、国による法制度の整備が必要であり、NHKだけで検討できることではないという前提があります。
その上で、視聴者・国民の皆様に御納得いただけるような制度となることが重要であると私も考えております。
○梅村委員 繰り返し、仮に負担をお願いする場合にはというようなのがいつでもついてくるんですけれども、まだ負担するということについて国民は納得していないわけですし、そういう議論もないわけですから、負担をするということを前提にするような、結論先にありのような議論はぜひ避けていただきたい。やはり公共放送として、通信との融合というのが大きな課題ですけれども、どうあるべきなのかということを、受信料も含めて、根本的にしっかりと国民的な議論を行う中で進めていただきたい。
そして、NHKは、放送法を遵守し、視聴者・国民を何よりも大事にし、放送事業者として役割を発揮していただくことを最後に強く求めて、質問を終わりたいと思います。
ありがとうございました。